カリモク60にみる、「元来有する魅力を引き出す方法」

性能や先行者利益が存在しにくい世界で普遍性を訴えるのは大変で、1種類のブランドが普遍性を有するという展開もなかなか難しい。そのような中で「カリモク60」は、普遍性に注目して、他ブランド・他商品と差別化を図っていきました。今回は、カリモク60を通じて差別化を図る方法についてレポートしていきたいと思います。

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普遍的というだけでは受け入れらない

そもそもキチンとした魅力がある商品なりサービスがあるとします。それを世に知らしめようとしたとき、果たしてそれだけで受け入れられるでしょうか。実はそうでもありません。普遍的であるということは、結局のところ普遍になってからはじめてそうであると理解されます。つまり、普遍性とはしつこいくらいに言い続けて、浸透して、はじめて普遍になるのです。まるで、新しく生まれた言葉が一般化して辞書に用例として掲載されるように。

商品なりサービスなりを見回してみると、普遍的な魅力を持つものはあります。例えば、誰しもが一度は飲んだことがあろう「コカ・コーラ」。コーラというジャンルで言えば、日本国内では敵なしの状態でしょう。場合によっては炭酸飲料まで裾野を広げたとしても対抗馬たりえる商品を探すのはなかなか難しいと言えます。しかし、そんなコカ・コーラでさえ定期的にテレビCMなどのPRを行なっています。そして、訴求するポイントは「飲んで爽やかな印象になる」「食べ物とあわせても相性が良い」といった内容です。これらは相当以前から変わりがありません。

そのほかの例で言えばハイブリッドカーの代表格であるトヨタ・プリウスが挙げられます。もはやエコカーの代名詞と言える存在。こちらは基本的な訴求ポイントは燃費の良さ。その点はプリウス登場時から変わりがありません。一時期、ホンダのインサイトが対抗馬として登場したものの結局はプリウスに駆逐されたのが懐かしくすらあります。プリウスもコカ・コーラ同様、ニューモデルが出るたびに決してPR活動をやめるということはしません。むしろ、プリウスという世に知れた存在を通じて、メーカーであるトヨタが知らしめたい内容を伝えるということが行なわれます。例えば、デザインの新プラットフォームたる「TNGA(ティーエヌジーエー)」を導入し、さまざまな車種に広めていくことを、プリウスを皮切りに行なったことが挙げられます。旗艦種となるクルマを通じてメーカーの全体に通じるPR要素を知らしめるという手法にまで活用されています。

少し話が脇道にそれました。結局の所、コカ・コーラの場合は「先行者利益」を全面に押し出し、その世界でトップランナーになり、プリウスの場合は「スペック」で、その世界のトップランナーになりました。要は、何かの理由があって抜きん出た状態になり、その地位を維持し続けるようにPRを継続したり、スペックに磨きをかけたりしているということになります。

明確な先行者利益や性能がなくても、普遍的存在になれるのか?

もっとも、「性能」や「先行者利益」が存在しにくい世界で普遍性を訴えるのは難しい。例えば、インテリアなどが良い例です。インテリアで普遍的なデザインというものは、得てして一人がけ用の椅子だったり、キッチン用品だったり、「ある単独のインテリア一種」においてのみ普遍性が認められるのが常です。ウケるように戦略を展開したとしても波及効果が乏しくなってしまいます。それこそ、イームズのチェアだったり、柳宗理の食器だったり、それ単独では受け入れられる普遍的デザインだったとしても、合わせる空間には他のインテリアが存在するということが常です。

むしろインテリアショップは、さまざまにテイストの異なる家具を合わせて一つの統一感ある空間を演出することに心を砕きます。したがって、一種類のブランドが普遍性を有するという展開はなかなか難しい。
しかし、そんな流れを切り崩した家具ブランドがあります。それが「カリモク60」です。今回は、カリモク60を通じて、あえて普遍性にスポットライトを当てて、他ブランド・他商品と差別化を図っていく手法についてレポートします。

廃盤寸前だったKチェア

そもそもカリモク60は、愛知県に本拠地をもつ「カリモク家具」が手がける家具ブランドです。カリモク60シリーズがこの世に出たのは昭和60年代。事務所用のインテリアといった存在でした。実は、北野武監督のヤクザ映画で組事務所のインテリアとして用いられていたり。なかでも代表的なモデルとして「Kチェア」があります。これは、一人がけ用のくつろげるソファ。ビニール製の表地(もしくはモケットという電車の座席シートのような質感の表地)でスプリングが効いた座り心地。肘掛けや脚などは木を用いています。パッと見ると、何でもない椅子です。それこそ街なかに古くからある不動産屋さんの接客スペースにしっくりくるようなデザインです。

このKチェア、平成10年代に廃盤の危機を迎えていました。デザインは、どんな空間にもマッチするという武器がありながらも、それゆえにここぞというPRポイントがなく、カリモク家具が手がけるさまざまな家具の中で売りあぐねていたという経緯があります。

Kチェアには「カリモク家具」というメーカータグが貼られていましたが、「外してくれたほうが安く売れるから売りやすい」と家具販売店に言われる始末。にっちもさっちもいかない状態でした。

60年代デザインの普遍性をあえて打ち出す

Kチェアが復活をしたきっかけがあります。それは2001年ごろにD&DEPARTMENTという家具・雑貨のセレクトショップ兼カフェで、カフェスペースに用いられたことでした。
そこでは、コンクリートの打ちっぱなしという極めて現代的な空間に、あの北野映画に出てくるようなレトロな黒いビニール皮のチェアが置かれたのです。すると、「現代的な空間にもマッチする時代を超えた普遍性」という「新しい切り口」がKチェアに与えられたのでした。あわせて、それまで「カリモク家具」とされていたブランドタグを廃止。アクリルの透明なプレートに60年代を思わせる太いゴシック調の書体で「カリモク60」とブランドとしてのタグを付けたのです。メーカーよりも、60年代のデザインが普遍性をもっていることを打ち出すために。

おりしも2001年前後は空前のカフェブーム。ビルの雑居フロアに、オーナーの趣向を凝らしたカフェを開店させる流れがありました。そこでは、現代的な家具からレトロな家具までさまざまなタイプが組み合わせられる傾向があったのです。どんなテイストの家具にもスッと納まってくれるKチェアは、重宝されさまざまな店舗で用いられるようになりました。「困ったらKチェアを置いてみる」という雰囲気すらあったほどです。

最終的には、家具だけではなく洋服を扱うようなセレクトショップの店頭にまでKチェアを取り扱うようになりました。

縮小する家具市場を尻目に商品の普遍性を訴えられる「売り場」を選ぶ

D&DEPARTMENTをきっかけに、普遍性を武器に販路を復活させたのは偶然ではありませんでした。
2001年頃、家具業界は根本的な転換を迫られていました。というのも、結婚をきっかけに家具を買い揃えようというニーズが減っていっていたからです。簡単に言えば、従来の売り方では家具が売れなくなってきていた。その上、社会はデフレ基調。より安く、という波は家具業界にも迫っていました。大手のニトリが安く、手軽にというのを推し進める一方、旧来の家具メーカーは今まで手がけてきた家具について、新しい売り方・新しい売り先が求められていたのです。

そこで、Kチェアが有する「なんにでもマッチしてしまう普遍性」は、新たな売り先である「カフェブームに触発されたインテリア好き」という層を確実にキャッチしたのでした。前述のD&DEPARTMENTをはじめとして、事務所用のイスというジャンルを捨て去り、新たな購買層がいるであろう売り先に積極的に、かつ、さまざまな見え方で受け取られるように。

その意味で、店内テイストの異なるさまざまなカフェで用いられることは、「こんな使い方をしてもKチェアの普遍性だったらマッチするよ」ということを訴求するには良い策になったのでした。
購入層がよく行く場所に商品を置く。加えて、(カフェで)使用するという実体験をも提供する、という効率的な手法で。

普遍性が受け入れられた後の、「賢い」展開

Kチェアをはじめとするカリモク60シリーズの賢いところは、普遍性が受け入れられた後の展開方法にもあります。
簡単に言えば「小出しに」「徐々に」ラインナップを展開したのです。

基本的に一気にレパートリーを増やすということはしませんでした。まず行ったのは、張り地のラインナップを増やすという、いわゆるマイナーチェンジです。当初は黒いビニール皮とモケットという素材でしたが、ここにベージュ調のビニール皮とモケットを追加しました。こうすることで、色味における室内空間のミスマッチ感を減らすことを実施。カタチが受け入れられていたことを重視し、色と質感のみの変更に留める戦略に出たのです。
その後、ラインナップの拡充に踏み切ります。ここで重視したのが「サイズ感」です。日本の家屋、あるいは集合住宅はどうしても手狭。そのなかで大きな家具を置けば邪魔になってしまうという実情があります。海外の普遍的デザインで有名な家具たちはこの点がデメリットでした。

一方のKチェアは、日本の室内空間を知り尽くしたカリモク家具が手がけるもの。当然、手狭な空間を意識したコンパクトな作りになっています。このコンパクトさを切り口に、Kチェアと同じ部材を用いた机や棚類をラインナップとしていったのです。無論、カリモク60のポイントである普遍性を有するデザインはそのままに。
購入者側は、Kチェアを軸に普遍性というメリットは理解しているので、追加ラインナップである机や棚のみを購入することもできるし、Kチェアとあわせることもできる。スキのないラインナップの穴埋めと拡充でブランドとして確立していったのでした。

何にでも合うという体験を訴求して、普遍性を血肉のあるものにする

このようにカリモク60は、普遍性というメリットを「実際に使う」という体験できる空間を広げ、多数用意することで訴求しました。普遍性というメリットを血肉のあるものにしていったのです。それは使用感が重視される家具というジャンルでは重要なことでした。

普遍性は使用感をもって訴求するということ。実はこれは家具に限らずさまざまなものにも通じます。冒頭で示したコーラは飲まなければなりません。プリウスの示す燃費の良さは、支出が減ることで実感されます。普遍的な何がしかの「良さ・メリット」は体験を通じて提供する。そのための場、あるいは露出を絨毯爆撃のように用意する。普遍性の訴求には切っても切れないことであることをカリモク60は教えてくれるのです。

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