新しい起業における資金調達法となるか? ICOとSTOを徹底解説。

若者の起業に対する関心が高まっています。現在は、「企業に入社して定年まで働く」ことの他にも「副業/複業」「パラレルワーク」「フリーランス」など、ライフスタイルに応じて多様な働き方を実現する人々が増えてきました。「起業」についても同様です。若年層が起業に憧れる背景には「自己実現の手段」「束縛されない生き方」「社会をもっと良くしたい」という思いがあるはず。しかし起業をする時に大きな障害となるのは、お金の問題です。もし自分の持っているお金や親族、知人から借りられるお金が十分でない時にはどこからか資金を調達しなくてはなりません。ただ、これまでの常識とされている方法にはさまざまな問題点があり、そのハードルは決して低くはありません。しかし、ここ最近になって新しい資金調達の方法が世界中で注目を集めています。その方法は「ICO(Initial Coin Offering)」と呼ばれています。
この記事では、従来の資金調達の手段を俯瞰することから始め、「ICO」について紹介し、さらにその発展系である「STO(Security Token Offering)」に関しても考察します。

これまでの資金調達の方法をおさらい

起業をしようとする人がビジネスモデルを考え、それを実現しようとした時に直面するのは資金の問題。冒頭に述べたように、それを自分あるいは親族、知人のお金でまかなえない時には、資金調達をする必要があります。従来の方法は、大きく分けて3つのカテゴリがあります。

まず1つ目のカテゴリは「出資」です。基本的な考え方としては、会社の株式を他者に譲渡することで資金を得ることができます。なぜなら、将来的に立ち上げた企業が順調に成長していった場合、出資者はその企業の株式から配当を受け取ることが可能になるからです。出資者としては、他の創業メンバーや他企業、ベンチャーキャピタル(VC)などが考えられます。出資してもらったお金を返却する必要がないことは大きなメリットです。また、出資者からのアドバイスや顧客やパートナーの紹介を期待することができます。一方、株式を渡すということは経営権を部分的に譲渡することになりますので、自分で会社の方向性をしっかりコントロールしたい場合は他の選択肢を検討した方がいいかもしれません。

2つ目は「融資」です。当然のことながら融資で借りたお金は一定期間内に返す必要があります。融資と聞いて最初に思い浮かぶのは銀行からお金を借りることかもしれません。しかし、立ち上げ期において銀行から融資を得ることは非常に難しいとされています。銀行より融資のハードルが低い信用金庫からの借入でさえもあまり現実的ではありません。そこで考えたいのが「制度融資」と「公庫融資」と呼ばれる方法です。細かい内容は割愛しますが、創業前の段階でも融資を受け取りやすいことが特徴です。融資は出資と異なり、経営権が他社に握られる可能性は低いです。ただデメリットとしては、金利を支払う必要があることです。

最後に3つ目のカテゴリは「補助金・助成金」です。代表的なものは「創業促進補助金」と呼ばれるものです。この方法は、出資と融資の問題点であった経営権の譲渡や返済・金利の義務がありません。しかしながら、募集がある時しか申し込めないことや申し込んでも採択されない可能性が高いことから、あまり確実性のある方法ではないことがわかります。

以上、起業における伝統的な資金調達の方法をざっくりと解説しました。これらの問題点をまとめると、

  • 経営権が他者に握られる危険
  • 返済・金利の義務が発生
  • 申し込んでも採択されない

ということになります。

新しい資金調達の方法ICO(Initial Coin Offering)とは?


ここではこの記事のテーマである「ICO(Initial Coin Offering)」について解説します。まず勘の鋭い方はお気づきのように、”Initial Coin Offering”の元となっているのは”Initial Public Offering”すなわちIPO(新規株式公開)です。ご存知の通り、IPOとは未上場企業が新しく証券取引所に株式を上場させることです。それでは、IPOのInitial Public Offeringの”Public”が置き換わっているICOのInitial Coin Offeringの”Coin”とは何を意味してるのでしょうか。その答えは「仮想通貨」のことです。なお仮想通貨の元となる英語は”Cryptocurrency”であり、直訳して「暗号通貨」と呼ぶこともあります。一時期TVCMもおこなわれていた時期もあったので、「あ、ビットコインのことか」と思う方もいるかもしれませんね。ちなみに、ビットコインは世界で初めての仮想通貨ですが、ビットコインの他にも仮想通貨は無数にあります。

仮想通貨とは何かを一言でいうと「ブロックチェーン技術を用いて第三者機関を介さず価値の移転をおこなうデジタル通貨の一種」です。とはいえ、これを聞いてもよくわからない人がほとんどだと思います。簡単に理解するために、SuicaやWAON、edyなどの「電子マネー」との違いを考えてみましょう。仮想通貨も電子マネーもデジタル的に処理できる通貨です。両者の違いは、発行や管理をする主体の有無です。例えば、SuicaであればJR東日本が主体ですし、WAONであればイオン、edyなら楽天です。つまり電子マネーのお金の価値は、それぞれの主体への信頼によるものです。これに対して、ビットコインは発行や管理をする主体が存在しません。それならお金の価値はどこから生まれるのか? それは「ブロックチェーン」という技術への信頼です。ブロックチェーンの仕組みはここではブラックボックスで構いません。ただ一つだけ、知っておいて欲しいことは、ブロックチェーンを利用すれば世界中の誰でも仮想通貨を作り出すことができるということです。

さて、それでは本題のICOに入ります。ICOは端的にいえば、

  1. お金を集めたい人が仮想通貨を発行する
  2. 発行した仮想通貨を投資をしたい人に売る

の2ステップです。

もう少し詳細に書きます。まずお金を集めたい人(以下、起業家)はホワイトペーパーと呼ばれる論文に仮想通貨を組み込んだ事業の構想を書き、インターネット上に公開。その後、そこに書かれた仮想通貨をブロックチェーンを利用して発行します。そして、そのホワイトペーパーを読んで「これは面白そうだ」と考えた投資をしたい人(以下、投資家)は発行された仮想通貨を購入します。そして仮想通貨の販売期間が終了あるいは調達目標金額を達成したら、ICOは完了です。ICOが完了したら、起業家は調達した資金を使ってホワイトペーパーに書いたことを実現していきます。ここで発行したトークンは、仮想通貨取引所と呼ばれる仮想通貨の公開市場に上場することで売買可能になります。その後、投資家は自分がICOで購入した仮想通貨を自分の好きなタイミングで手放して、その時の公開価格に応じたお金を手に入れることができます。

ここまでの解説を聞いてもいまひとつICOのイメージが湧かない方も多いと思います。そこで具体的にICO市場に関する数字を見ていきましょう。Autonomousというリサーチ企業が2018年10月に公表した調査によると、ICOの2017年の資金調達額合計は70億ドル(約7,700億円)、2018年は120億ドル(約1兆3,200億円)です。個別の事例を見てみると、EOS(イオス)のICOは1年間に渡ってトークンの販売をおこない42億ドル(約4,620億円)を、TelegramのICOは即完売し17億ドル(約1,870億円)の資金調達に成功しています。このような数字を見れば、ICOが資金調達の方法としてどれだけ世界中で注目を集めているかがわかるでしょう。
(参照: https://news.bitcoin.com/ico-activity-down/
そして注目すべきは、ICOは今までの資金調達の方法の問題点を解決していることです。

  • 投資家の声は聞き入れるべきだが、経営権を譲渡する必要はない
  • ICOによって集めた資金は、返済・金利の義務がない
  • 対象の投資家は無数にいるため、まったく資金が集まらない可能性は低い

このことから、起業家にとってICOが新しい有力な選択肢となることがわかると思います。

ICOはある致命的な問題を孕んでいた・・・?

前項では、ICOのプラスの側面に焦点を当てて解説してきました。ただICOが世界的なブームとなる中、ある問題が浮上してきました。ここでは、その問題について説明します。

ICOは資金を調達する側にとっても革新的でしたが、投資をする側にも魅力があります。それらをまとめると、

  • 国境を問わず、自分の好きな事業に小口から投資できる
  • 事業の初期段階から投資できるため、一攫千金のチャンスがある
  • 厳格な投資要件を満たさずとも参加することができる

ことです。これらは投資に対する従来の概念を覆す画期的なことです。それではICOの問題点とは一体何でしょうか? その答えは、上述した3つの魅力をよく考えてみるとわかります。ここであげた魅力に共通することは、どれも投資家の自由を促進するということです。では、投資家の自由度が高まるとどうなるか? それは、投資家の「リスク」が増加することを意味しています。

実際、ICOが爆発的なブームになると同時にいわれたのは「ICOの9割は詐欺」という言葉です。そしてこれは事実でした。ICOに参加することは誰であっても可能ですので、それまで投資とは無縁だった門外漢の人たちの多くが「ICOは儲かる」という言葉に踊らされ、詐欺ICOの被害にあいました。つまり蓋を開けて見れば、従来の投資の「不自由さ」は投資家をこのような事態から守るためのものだったということです。このような事態をうけ、中国や韓国はICOを禁止しました。また他の国でも米国のSEC(証券取引委員会)を先頭に、ICOで発行された仮想通貨を証券とみなして既存の法律で規制することで投資家保護をおこなう流れに落ち着きました。

日本においては、金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」(2018年12月21日公表)によってICO規制を含む仮想通貨規制の枠組みが示されました。これに対して、新経済連盟は「暗号資産の新たな規制に対する要望」(2019年2月14日公表)の中で、いくつかの修正や変更を求めました。

まず規制案では、株式発行に性質が似ている「投資型ICO」で発行される仮想通貨は、多数の人々に流通する可能性があることから、金融商品取引法における「第一項有価証券」と同様に扱うとしています。これに対して、仮想通貨を扱う権利が一部の投資家に限られる場合には「第二項有価証券」として扱い、具体的な例外は「政府や府令」によって規定すべきと求めています。また、「第一項有価証券」に該当する場合、発行する仮想通貨を扱うには「第一種金融商品取引業者」への登録が必要となり、参入障壁が極めて高くなってしまうため、「新技術の利活用促進の妨げとならないよう留意すべき」とも記しています。

さらに規制案では、自社サービスの購入に使える「決済型ICO」で発行された仮想通貨を扱う仮想通貨交換業者に対して「発行者に関する情報や事業計画書、事業の進捗、事業の実現可能性」などの情報を利用者に対して提供するべきとしています。これに対して、「発行体」と「交換業者」を分けてそれぞれの責任を具体的にはっきりするべきと提案しています。さらに「取得者が少人数の場合」「少額発行の場合」「適格機関投資家や富裕層を対象とする場合」などのようにある条件を満たす時には、ICO規制の適用対象外にすることや、仮想通貨の種類や特性を考慮したルール設計をすることを検討すべきとしています。

ICO規制に関しては、日々議論が進められているため、興味がある方は最新の動向をチェックするようにすると良いでしょう。

ICOの問題点を克服し得るSTO(Security Token Offering)の考察


ICOが各国の規制当局による取り締まりを受ける中で、今度はICOの発展系ともいうべきSTO(Security Token Offering)というものが注目を集めています。ここでは、STOの概要についてまとめたいと思います。
まず「”Security Token”とは何か?」ということです。”Security”は「証券」と訳すことができます。トークン(Token)は多少の違いはあるものの仮想通貨とほとんど同じ意味です。トークンには「証券(セキュリティー)トークン」の他にもう一つ「ユーティリティートークン(Utility Token)」と呼ばれる種類があります。両者について簡単に説明すると、まず「証券(セキュリティートークン)」はその言葉の通り証券性を持つトークンのことです。一言でいえば、将来的な値上がりを期待して購入されるような投資の対象と見なされるトークンです。それに対して、ユーティリティートークンは、特定のサービスを利用するために使われるような実用性や利便性を持つトークンのことです。

ICOで発行したトークンが証券とみなされて規制を受ける流れが加速していると前述しましたが、ICO実施者の多くはこれを回避するためにホワイトペーパー内で「私たちのトークンは、ユーティリティートークンである」と明記するようになりました。ユーティリティートークンであれば、証券ではないので規制の適用外になるという理屈です。しかし、実質上ほとんどのICOで発行されるトークンは証券性を持っており、文言だけ加えても規制を回避することはできないだろうという見方がされています。
そこで登場したのがSTOです。わかりやすくいえばSTOは、ユーティリティートークンであるという言い逃れは厳しそうだから、それなら初めから最後まで証券トークンとして規制に準拠した形でICOを実施しようとする方法です。このSTOが2019年の仮想通貨の世界では一大潮流となるとされています。

STOに取り組むプロジェクトの具体例

第1のプロジェクトは、海外大手取引所のPoloniexを買収した米企業Circleです。同社は2018年10月にブローカーディーラー(仲介業)の資格を持つNYに拠点をおくSeedIvnvestを買収すると発表しました。この買収を皮切りに、Circleは証券トークンに対する取り組みを本格化しています。

第2のプロジェクトは、米VCのAndreessen HorowitzとPantera Capitalの支援を受けているHarborです。同社はトークン化された証券を発行するプラットフォームを提供します。2018年10月にはカストディアン(保管)企業であるBitGoと提携しました。この狙いはHarborのプラットフォーム上でSTOを実施したプロジェクトのトークンを保管することです。

第3のプロジェクトは、今年12月にBlockchain Capital、Coinbase、Xpringなどから約15億円を調達した証券トークンプラットフォームのSecuritizeです。同社はHarborと同様に証券トークンの発行プラットフォームを目指しています。

第4のプロジェクトは、証券トークンのプラットフォームを構築するPolymathです。PolymathはST20トークンと呼ばれる証券トークン規格を作成しています。ST20に準じているものはKYC(本人確認)などの規則にしたがって発行されていることが証明されます。

第5のプロジェクトは、米EC大手のOverstockの子会社であるtZeroです。同社は企業のSTO実施をサポートしていく予定です。tZero自身もSTOの調達によって約150億円を調達しています。

上記で挙げたプロジェクト以外でも、OpenFinance Network、Start Engine、Templumなど、さまさまな企業がSTOによる資金調達や証券トークンの発行に関心を示しています。

もしSTOがICOの問題点であった規制の問題をクリアすることができれば、資金調達の方法として爆発的に普及する可能性があり、起業家にとっては追い風となるかもしれません。

まとめ:新しい起業家のための資金調達法

この記事では、これまでの起業における資金調達法の概要と問題点を説明し、その問題点を解決し得る手法として近年注目されているICOとその発展系であるSTOの概要と誕生した背景をまとめました。起業家の最初に乗り越える壁というべき資金調達に新しい選択肢が増えれば、もっと画期的なビジネスが世の中に増えていくかもしれません。ICOとSTOの動向に、注目です。

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