ReTech業界研究 〜「不動産」のあり方を変えるテクノロジー

「XTech」の流れは業界を越えて大きな広がりを見せています。金額の大きさや求められる信頼性の大きさという面で、これまで人と人が顔を合わせて話すことが重要視されてきた不動産業界も例外でありません。

ほんの数年前には考えられなかった形に姿を変えつつある、不動産業界のこれからについて考えていきましょう。

「シゴトのコトゴト -20代のための注目業界図鑑-」第3回のテーマは、ReTech業界について。これから不動産業界を目指すために必要な知識をまとめていきます。

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1. ReTech(Real Estate Tech)とは

ReTechを取り上げるにあたり、まずは不動産業界にあるサービスについておさらいましょう。今回は中でも
「売買」「賃貸」「プロパティマネジメント」「建物管理」
という4つの主要サービスについて説明します。

1.1 これまでの不動産業界

「売買」「賃貸」「プロパティマネジメント」「建物管理」

まず「売買」とは不動産を売り買いして利益を生み出すことです。住居用・商業用物件はもちろんのこと、土地だけの取引を行なうこともあります。

次に、「賃貸」は不動産の貸し借りに関わるサービスです。賃貸も売買とならび、イメージしやすいサービスでしょう。

「プロパティマネジメント」とは、オフィスビルやショッピングモールなどのテナント誘致・運営を行なうことで不動産収益の最大化を目的とするものです。

最後の「建物管理」はそのまま不動産を安全に使い続けるために必要な保守点検・維持管理を行なうことを指します。

このようなサービスが従来の不動産業界にある主要サービスです。ReTechではこれらのサービスをより気軽かつ便利に使えるようにするものが近年広まりを見せています。

1.2 知らずに触れているReTech ― レンタルサービスの事例

では具体的にReTechとは、どういったサービスを指すのでしょうか。まず、私たちが知らず知らずのうちに触れているReTechサービスについて紹介します。

たとえば、民泊もReTechによって浸透したサービスのひとつです。日本では東京オリンピック期間中に、外国人観光客を受け入れる解決策として注目されていますが、海外では10年以上前から広く認知されています。

代表的なサービスとして知られるAirbnbは家を貸したい人・家を借りたい人をつなぐWebサービスです。AirbnbがWebというツールを駆使して解消したのは、「行ったことのない土地の、会ったことのない人から家を借りること」への不安感でした。

Airbnbは事業拡大を行ないながら、「見ず知らずの人と不動産を貸し借りする」ことへの抵抗感をなくしていったのです。テクノロジーの進化があったからこそ生まれた不動産サービスの新しい形だといえるでしょう。

そして、Airbnb がITを活用することによって不動産業界にもたらした気軽さや安心感は、よりフレキシブルなサービスの誕生にも貢献しました。それが昨今、国内外で急速に利用者を増やしている「スペースマーケット」です。

スペースマーケットは空間を時間単位で貸し借りできるサービスです。その特徴は空間の多様性にあります。一軒家やマンションの一室にはじまり、オフィスの会議室や地域のコミュニティスペース、さらには映画館や野球場までWebで利用予約できるのです。

スペースマーケットはこれまでさまざまな契約書を交わさなければ利用できなかった不動産を、Web上の登録だけで使用できるようにしました。

1.3 ReTechはどのように広まるか ― WeWorkの事例

現在不動産業界に広まるTech化のキーワードは、「Web化」と「シェア」です。これまで人と人、対面でなければ難しいとされていた信頼性の担保をWeb上で行うことによって、いろいろな不動産をシェアできるようになりました。

前のブロックでは一般ユーザー同士のつながりを例に挙げましたが、ReTechはBtoBの面でも広まりを見せています。そのなかで大きな存在感を放っているのが「WeWork」です。

WeWorkはニューヨークに本社を置く、同名企業によるコミュニティ型ワークスペースサービスです。従来のコワーキングスペースでは異なり、そこで新たなコミュニティが形成され、企業と企業、企業と個人が相乗効果を与え合うことを目指しています。

その先進性は多くの注目を集め、世界各国で大手企業から出資を受けているという面でも有名です。なかでもソフトバンクグループはこれまでに5000億円以上の出資を行なうとともに、WeWork本部と共同で日本法人の立ち上げました。

東京・横浜・名古屋・大阪・福岡と、日本国内の主要都市にすでに19拠点をオープンしているWeWorkの特徴は、IT・IoTによる業務環境整備を得意としている点です。WeWorkを利用することで、法人・個人問わずクリエイティブな環境で、ローカルにもグローバルにもネットワークを広げながら仕事に取り組むことができます。

また、ソフトバンクの法人営業部隊1,400名がWeWorkオフィスに移転したことは不動産業界に大きな衝撃を与えました。これには過去にサテライトオフィスや在宅勤務によってリモートワークを推進してきたが、なかなか浸透しなかった背景があるといいます。

そして、その解決策としてWeWorkの試験利用を実施したのでした。これまで企業のオフィスは、オフィスビルの一角に賃料を払って入居するというスタイルが一般的でした。今回の事例は新しい考えを社会に広めるきっかけになるでしょう。

1.4 インタビュー:WeWorkが大きなムーブメントになっている理由

さらに今回、この記事を作成するにあたり、WeWorkの広報担当 平位さんから話を聞くことができました。まず、アジアでは香港、シンガポール、台湾、インドなど、さまざまなエリアで、すでに拠点オープンしていますが、展開スピードは日本がもっとも早いといいます。

また、注目すべきなのは展開スピードだけではありません。WeWorkが6月に発表したグローバルインパクトレポートでは、去年1年の間だけでもWeWorkがサポートしたビジネスは東京都内で1万4200件にのぼり、1273億5650万円のGDPに貢献したというデータがでたのです。

メンバー同士のつながりに目を向けると、東京と大阪をTV電話でつないで意見交換をするイベントや地域のプロモーションイベントなど様々なイベントなどが行なわれていたり、WeWorkのワークスペース以外の場所でも、BBQイベントなどが開催されています。福岡ではWeWorkを通じて仲良くなったメンバーがヨーロッパ旅行に行き、ヨーロッパにあるWeWorkを回ったというエピソードがあるなど、WeWorkは職場でもプライベートでも新たなコミュニティが生まれるきっかけになっています。

その他にも企業同士がコラボレーションをするなど、WeWorkを通じてさまざまな縁が生まれているそうです。個人と個人、企業と企業、そして個人と企業といったコミュニティが発展できる環境を作ることこそが、WeWorkが展開する事業のエッセンスなのだといいます。

「作っているのはただの貸しオフィスではなく、コミュニティ型ワークスペース」だという話を聞き、世界各国でWeWorkが大きなムーブメントとなっている理由がわかった気がしました。

ここまでAirbnb、スペースマーケット、WeWorkといったReTechサービスの事例を見てきました。これらのサービスを見てわかるように、現在世の中に浸透しているのはスペースのシェアや不動産の貸し借りに関わるものです。

その他の領域では、下図のようにIT・IoTとサービスが組み合わさることで、不動産業界の姿が変わっていくのではないかと期待されています。

ビッグデータを活用することで売買・賃貸価格の納得度の向上/AIによる正確な物件紹介・価格提案/VRを用いたリアリティのある情報提供

2. ReTech業界の市場規模

不動産という多額の取引が行なわれることをベースにしているReTech業界は、他のXTech業界に比べ、大きな市場規模を持っています。

たとえば前回の「シゴトのコトゴト」で取り上げたHRTech業界は2018年に200億円という規模でしたが、ReTech業界は2017年度実績で3800億円規模に到達する見込みです。潤沢な資本を持つ企業が注目し、競争していくことで、今後爆発的に発展していくでしょう。

ここからはこのようなReTech市場について、現状とこれからをおさえていきたいと思います。

2.1 これまでの推移とこの先の成長

株式会社矢野経済研究所が2018年11月に発表した市場動向では、ReTech市場は2015年度から2017年度にかけて年20%のペースで成長を続けています。また、今後も衰えることなく伸び続け、2020年度には2017年度比64.1%増の6267億円に拡大すると予測されています。

また、今後特に成長が期待される分野の予想としてはBtoC領域ではマッチング市場、BtoB領域ではVR・AR市場です。BtoC領域のマッチング市場では個人顧客の求めるものをいかにしてより効率よく提案できるかという部分で、IT・IoTが活用されることになるでしょう。

BtoB領域のVR・AR市場では、建築・施工現場や物件の内覧、インテリアのレイアウトシミュレーションといった場面で業務支援サービスが発展していく見込みです。

さらに、新たなサービスの開発・提供は単独事業者にとどまらず、ReTech事業者、FinTech事業者、VR/AR事業者などによる協業も動き出しています。

2.2 ReTech浸透の現状と期待感

株式会社NTTデータ経営研究所が2019年2月に発表した調査結果によると、不動産業界において現在導入されているテクノロジーは派のような下図のような状況です。他のXTechサービス同様、不動産業界でも自動化やシステム化が浸透しつつあることが垣間見えます。

▼52.5%/AI(機械学習、ディープラーニング含む)▼49.5%/Web化・オンライン化▼48.5%/ビッグデータ(DMP:Data Management Platform含む)▼31.3%/IoT
参考:
https://www.nttdata-strategy.com/aboutus/newsrelease/190215/index.html

また、ReTechという新しい取り組みは、ベンチャー企業や中小企業が積極的に取り組むイメージがありますが、ReTechに関しては規模が大きな企業ほど積極的に取り組んでいるということが明らかになりました。

さらに導入済みのReTechの成果についても、以下の図のような結果が得られました。「期待通りの成果」「期待以上の成果」があわせて51.5%であった一方で、 37.1% の人が「一定の成果は得られているが、期待していた程ではない」「期待していた成果は得られていない」についても37.1%に上りと答えており、まだまだ満足度が高くないことがうかがえます。

ReTechの導入に取り組む企業
参考:
https://www.nttdata-strategy.com/aboutus/newsrelease/190215/index.html

3. 領域別ReTechサービス

一般社団法人不動産テック協会が発表し、改訂を重ねているカオスマップでは、ReTechサービスを下記13種の領域に分類わけしています。これを見ると、ReTechサービスがいかに多岐にわたるものなのかがわかります。

不動産テックカオスマップ
引用元:
https://retechjapan.org/retech-map/

また、NTTデータ経営研究所はさまざまな領域におよぶReTechサービスを

  • ビッグデータ活用
  • マッチング提供
  • 行動(業務)支援

という3つに大別し、整理しました。

今回はNTTデータ経営研究所による分類を使用し、ReTechサービスが実現しようとしていることを考えていきたいと思います。

3.1 ビッグデータ活用

HowMa(株式会社コラビット)

不動産に関連する様々なデータを収集・分析・加工することで、価値のある情報や予測データをユーザーに提供できるようにする分野です。すでに広く認知されているポータルサイトに加えて、近年ではAIによる自動化が導入されつつあります。

たとえば住宅購入支援サービス「HowMa(株式会社コラビット)」や、不動産投資支援サービス「Gate(リーウェイズ株式会社)」はただ多くの情報を集めるだけでなく、独自のAIやアルゴリズムで処理したデータをそれぞれのユーザーに合った形で提供しています。

今後はサイトに多くの情報があるだけでは、不動産情報サイトの価値を提供できなくなるかもしれません。ユーザーに対して、「自分のニーズを素早く、正確に読み取ってくれて、適切な情報を提示してくれる」と感じさせることが重要になってくるでしょう。

3.2 マッチング提供

スイッチオフィス(株式会社ヒトカラメディア)

マッチング提供サービスでは、売り手と買い手だけでなく、不動産に関わるプレイヤー同士をつなぐプラットフォームも発展しつつあります。この分野で近年注目を集めているのはテナント運用に関わるサービスです。

「スイッチオフィス(株式会社ヒトカラメディア)」や「そのまんまオフィス!(サンフロンティア不動産株式会社)」が提供するのは、オフィス退去時にかかる原状回復費を抑えたいユーザーと、オフィス入居時にかかる内装構築費を抑えたいユーザーをつなぐサービスです。

オフィスデザインを変えずに入退去ができる居抜きオフィスで、両者の負担軽減に加え、内装工事も省略できるという点が支持されている新しいスタイルです。ReTechにはこれまでの無駄を省き、ユーザー同士がwin-winの関係を築く支援をする役割も期待されています。

3.3 行動(業務)支援

スマート内覧(株式会社ライナフ)

先進テクノロジーや洗練されたUI/UX、クラウドなどを活用することで、ユーザーの利便性向上と企業の業務効率化を同時に実現するサービスに期待が寄せられています。

たとえば「リノシー(株式会社GA technologies)」は次々に表示される写真を見て「気に入った」「いまいち」を選択するユーザーの嗜好にあわせて、最適なリノベーションを提案するアプリ。ユーザーとリフォーム会社、双方のストレス軽減・時短となるサービスです。

また、「スマート内覧(株式会社ライナフ)」はWebカレンダー上の「〇」「×」を見て、自由に内覧予約ができるというもの。物件を探して、電話やメールで問い合わせを行って、スケジュールをメモして……という手間をユーザーと仲介会社、双方から取り除きます。

行動(業務)支援の分野では人が関わる部分を減らすことで、サービスの自由度が増し、業務が軽減されるツールが出始めています。特にBtoCの領域で今後も新たなサービスが生まれていくことでしょう。

4. ReTech業界で働くことについて

ここまでReTechサービスの概要や広まりを見せているサービス、今後さらなる成長が期待される分野を見てきましたが、不動産業界と既存企業にとって、ReTechの波は無条件で歓迎されているわけではありません。

というのも、新たなビジネスを運用・活用するためにはコストが発生するからです。不動産業界の多くの企業はReTechが不動産サービスの在り方を変える可能性があると感じながらも、大きな投資をすることに踏み出せずにいます。

そのため、「ReTech浸透の現状と期待感」の項目でも触れましたが、新しい取り組みは、ベンチャー企業や中小企業が積極的に取り組むイメージがありますが、ReTechに関しては、規模が大きな企業ほど積極的に取り組んでいるという結果がでたのです。

一方で社会全体で動き出しているXTechの流れに対して、完全に無関心でいることができないのも現実です。現在不動産業界で事業を展開する企業、そしてそこで働くビジネスパーソンにとって、常に新たな情報をキャッチアップしていくことは不可欠だといえます。

4.1 ReTech業界で働くために必要な知識

求められるのは不動産に関わる知識とIT・IoTなどのXTechにかかわる分野への興味・関心です。すでに不動産業界で活躍しているベテラン社員に、経験の部分ではかなわないので、不動産業界に輸入できるような他業界の成功事例を知っておくと重宝されるでしょう。

FinTechやHRTech、EdTech、AgriTechなど、XTechはさまざまな業界で広まりを見せ、社会全体で大きな流れとなっています。不動産というテーマに関わらず、XTechに関わる幅広い知識があれば、ReTech業界での活躍につながるはずです。

不動産に関わる知識をベースに、XTech関連の情報を吸収していくのか、もしくはその反対か、自分の興味に従って知識を習得していけば、それが自身の個性や独自性になっていくでしょう。

4.2 ReTech業界で活躍する人材像

不動産業界はまだまだタフな働き方が求められる業界です。ReTechサービスを提供しているベンチャー企業の経営者にも、まずは業界でがむしゃらに働いて成功をおさめてから、特定領域のReTechサービスの開発・提供に着手した例があります。

社会で売買される商品・サービスのなかでも特に金額が大きな不動産に関わる仕事をするには、ハードに働く覚悟が必要です。ReTechサービスは必ずしも不動産系企業が運営母体となっているわけではありませんが、取引先には不動産系企業が含まれてきます。

大きなお金を使う消費者とワークハードしている業界人、双方と関わっていく意識を持てる人というのがReTech業界で活躍する人材像だといえるでしょう。不動産やXTechに関わる知識の習得に加えて、このような仕事のマインドを養うことが重要なポイントです。

4.3 ReTech業界での待遇

ReTech業界の企業には不動産系から発展した企業と、IT・システム系から発展した企業があります。

不動産系企業から発展した企業の場合、待遇も既存の不動産業界よりとなり、給与水準が高く、休日が少ない点が特徴です。そのため、新卒から月給25万円という求人も珍しくありません。一方で休日に関しては土日ではなく、火水という企業が多く、中には隔週休2日という場合もあります。

また、IT・システム系から発展した企業の場合、月給は22万円前後です。休みは土日祝という会社が多く、年間休日120日以上というところもあります。中途採用ではIT系職種で年収500~800万円からのスタートが散見されます。営業系では経験者は成果報酬・フルコミッション、未経験者は新卒同等という報酬。経験やスキルによって待遇が大きく異なる点が、ReTech業界・不動産業界に共通する特徴です。

この業界で働くことを目指す人にとっては、今後の成長が期待される領域だからこそ、サービスを作るポジションや広めていくポジションにニーズがあるという状況がポイントになるでしょう。

まとめ

今回はReTechについてまとめてきましたが、いかがでしたか。他のXTechに比べ、浸透が遅れているといわれる不動産業界・ReTechサービスですが、なかには私たちが知らず知らずのうちに触れているものもあります。

さらなる成長が楽しみな分野で、周囲に先んじてReTechに関する知識を習得していくことができれば、今後キャリアを積んでいくうえで自分の強みとなるはずです。

そして、早い段階からReTechに関わる仕事をしていれば、ReTechサービスの著しい発展を肌で感じながら、業界において欠かせない存在へと成長していくことができるでしょう。

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